散髪。
2001/08/11

 
 三年ぶりに床屋に行く気になった。こう書くと三年も髪を伸ばし続けたように思われるかもしれないが、そうではない。三年間、オレは自分で髪を切っていたのだ。オレは、床屋とか美容院がとても苦手なのである。床屋や美容院は、僕にとって敷居が高すぎる空間なのだ。

 店のイスに座った時、「どうしましょう、」と聞かれる瞬間を想像するだけで眩暈がする。僕は揉み上げをビンという事以外の理髪用語を知らない。そんなオレが、どうしてカットの注文が出来よう。

 髪型にこだわりがないわけではない。オレは一応アーチストであるからして、アーチストたる髪型を希望するわけだ。もちろん外見をいとわないアーチストもいるが、オレはそうではない。アーチストの匂いがプンプンする男然としていたいのだ。ゆえに、こう言う髪形にして欲しいという明確なイメージがある。それなのに、それを適切に理容師に伝えるだけのボキャブラリーを持ち合わせていないのである。

 店にはヘアーカタログというものがあって、それを指差すという方法もあるらしい。雑誌を切り抜いて持っていくという手もあるらしい。場合によっては「キムタクみたいにしてくらはい。」と、口頭で言う手もあるらしい。

 そんなこと、できるわけがない。

 「へー、あんた、このモデルに自分を重ねちゃってるのね。」なんて思われるのは、エッチの時、相手の女の子に演技されることよりも、ずっと屈辱的だ。エレベータで、オレより先に降りた奴がおならをしたのに、後から乗ってきた奴に、「お前、おならしやがったな」と言う目で見られるより耐えがたい辱めである。

 やがてオレの番が来て、理容師がやってきた。
 「どうしますか。」
 「ビンは長く残してください。」
 それだけは、言えた。

 ええ、オレの揉み上げだけが不自然に長いのは、そのせいです。
 

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