真剣。
2003/04/10

 
 プチっとラジオの電源を入れたら、ラジオ体操が流れてきた。ほほぅ。懐かしいじゃないの。ラッキーなことにたった今始まったばかりである。これはやらないといけないでしょう。オレはすっくと立ち上がり、ラジオ体操に加わった。

 この放送を聴きながら、オレとまったく同じタイミングで同じ動きをしている人がこの世のどこかにいる。そう考えるとちょっぴりうれしくなってくる。久々のラジオ体操であっても、体は覚えているものだ。なんの迷いもなく、次々と変化する体操についていっている。

 どうせなら、思いっきり真剣に体操してみよう。

 オレは出来うる限り力いっぱい、そして華麗に体操をすることにした。オレの肉体は弾けんばかりに躍動した。第二体操を終える頃には、息が切れ、汗がほとばしっていた。

 ラジオ体操って、結構ハードなスポーツだったのね。

 思えばこんなに真剣にラジオ体操をしたことなんてなかった気がする。いい加減にやり過ごしていたせいで、ラジオ体操の素晴らしさを知らすにいたのだ。
 いや、ラジオ体操に限らず、オレは、人生のすべてをいい加減にやり過ごしてきたんじゃないのか。

 人生はいつからでもやり直せる。
 その時からオレは何事も真剣に取り組むことにした。

 真剣に歩く。脈拍は100前後をキープし、手はつま先までまっすぐに。足はかかとから着地し、つま先から地面を蹴る。一連の動作は華麗に優雅に、一切の破綻なく美しく。おおっ、なんだか気持ちいい。

 真剣に階段を登る。階段の一段一段を、決して省くことなく、足元に視線を落とさず、やはり美しく階段を登る。

 真剣にテレビを見る。一瞬たりとも画面から目を離さず、人物の動きや服装を決して見逃さない。台詞の一言も聞き漏らさない。もちろん背景に配置された大道具、小道具ももらさずチェックする。

 トイレの時だって真剣だ。尿の着水位置が便器のど真ん中に来るようにコントロールする。放水量は毎分250mlのときが一番美しい弧を描く。最後は声を出しての指差し確認だ。「尿管内、残尿なしっ。」「チャックよしっ。」「水洗よしっ。」

 妻の話を真剣に聞く。相槌はすかさずタイミングよく、大きな声で。うなずくときは大きくうなずく。
 「あのね」
 はいっ。
 「今日ね、」
 はいっ。
 「ごみ捨てるの忘れちゃった。」
 そうかっ。辛いけど、人生に失敗はつきものだ。気を落とさず頑張って生きよう。
 「ふざけてんの?」
 オレは真剣だっ。真剣すぎるほど真剣だ。思いっきり真剣に生きること決めたんだっ。

 バシッ。・・・叩かれた。

 何事もほどほどがよろしいようで。
 

Produced by 110kz.com

Sponsor Site