急に風が強くなったなと思ったら、かすかに雨の匂いがした。
すると突然、空は黒雲で覆われ、辺りは薄暮時の様に暗くなった。と、予告なく土砂降りの雨が降ってきた。十秒も雨の中に立っていたら、内臓までぐしょ濡れになってしまいそうな、激しい雨。
僕は慌てて運転していた車の窓を閉め、カーラジオを点けた。
ボビー・ヘブのサニーと言う曲が流れていた。
真昼だと言うのにヘッドライトを点け、ワイパーをフル稼働させる。しかし、ワイパーの処理能力をはるかに上回る雨が降り注いでいて、視界は雨にさえぎられたままだ。まるで海の底を進んでいるみたい。でも、これはこれで悪くないな。滅多に遭遇することの出来ない非日常な空間に、心が躍る。前に同じような天候に遭遇したのは何時だったか。
サニーと言うのに、土砂降りの天気にぴったりの曲だ。
確か、次に変調した時に、ベースがフレーズをちょっとだけ弾き間違えるんだったよな。
僕は、その瞬間を聞き逃すまいとボリュームを上げた。10年前に僕がこの曲に聞き入っていた時と同じように、やっぱりベースは一つ音を外した。
間もなくラジオの中のボビー・ヘブは演奏を終えた。
雨はまだ降っている。
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