ふと気付くと、涼しげな秋の虫たちの鳴き声が、家を包み込んでいた。
あ、秋が来ているな。
去年、東京の高層マンションに住んでいる友人が、我が家に遊びに来た時、この虫の音に感動していたっけな。オレにとっては、まったく気にも留めない虫の音。せっかく良い環境に住んでいても、日常の中でその事に気付かない自分。幸せと言うものは、慣れと共に、埋没してしまう危険性を持っているのだな。
今年は、いつ頃から、こうして鳴いていたんだろう。
よし。明日は虫の音を聞きながら一杯やるか。
もし良かったらご一緒にどうですか。
茶室に花を生けてお待ちしています。
ふと思ったのだが、虫の声そのものが涼しげなのか、夏の暑さも和らいだこの季節にいつも聞こえるから、パブロフの犬みたく涼しさを感じるのか。
一体どっちなんだ。
いとうけんじ、後の説を支持します。パブロフ派です。
秋の夜長、毎年ウシガエルが鳴いていれば、人はウシガエルの声に過ぎ行く季節の哀愁を感じるに違いない。毎年同じ時期に同じサウンドを聞くうちに、サウンドから季節を感じるようになっているだけなのだと思う。
ならば。
秋の夜長に、毎晩、いとうけんじが夜通し雄たけびはを上げれば、いずれ、いとうけんじの雄たけびは、秋の風物詩となるに違いない。
あら、いとうけんじの雄たけびが聞こえるわよ。
そうだね、もうそんな季節なんだね。
そろそろ、風鈴しまいましょうか。
いゃ、何だか寂しいから、もう少し出しておこうよ。
いやはや。なかなか風流ではないか。
さて、早速今晩から始めますかな。雄たけび。
ウーリャリャリャ。オリャ、オリャ、オリャ。
秋の夜長にこだまする、いとうけんじの雄たけび。いやはや、なかなか風流ですな。
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