ハンズフリー。
2003/11/04

 
 今や携帯電話の時代。
 誰もが誰に対してもダイレクトアクセスできる時代になった。

 女の子の家に電話をかける時に、彼女のオヤジが電話に出たらドウシヨウと、コール音を聞きながらドキドキするというあの体験も、現代の青少年にとっては無縁のことだろう。

 逆に、年頃のお嬢さんをもつ家のオヤジにしてみれば、その存在意義を、また一つ失ったと言える。シドロモドロになっている青年を、ぶっきらぼうに「どちらさん?、要件は?」とイジメるという行為は、オヤジの楽しみであると同時に、家族の絆を他者に対してアピールし、そして自らも再確認すると言う大切な儀式であった。

 それが今や昔。ガンバレっ、お父さんっ。

 先日街を歩いていたら、後から「こんにちわぁ。」と声をかけられた。うむっ?と振り返ると、見知らぬ男が立っていた。とりあえずスーツを着ているものの、どう見てもビジネスマンとは見えない。もっと具体的に言うと、自宅でリカちゃん人形とか集めて着せ替えをして、うひひひっと笑っていそうな男だ。

 何だコイツは。

 オレの友達リストには入っていない奴だが、影の薄かった友達かも知れない。ひょっとするとオレのファンか。男は困惑するオレを無視して、「どーも、お元気ですか。」としゃべり続けている。
 が、どーもおかしい。
 目がイッちゃっている。何もない空中を見つめている。

 そこに、誰かいるのか。誰か見えるのか、お前には。

 やばいぞコイツは。オレには見えない誰かと話をしている。にこやかに話をしている。会話にあわせて両手でジェスチャーまでしている。
 何かでラリっているのか。
 やばいぞ。
 やばいぞ。
 ふと見ると、耳からコードが出ていて、胸のポケットに繋がっている。
 そう。奴はハンズフリーのイヤホンマイクを使って、携帯電話で話をしていたのだ。ちなみに奴は手には何も持っていない。ハンズフリーと言うぐらいだから、奴が手ぶらなのは間違っていないような気もするが。

 キモイぞ、このヤロー。

 そう言えば、電話と言うものが世に登場した時、四角い箱に向かって話すススンデル人を、オクレテル人は気味悪がって眺めていたと言う。
 と言うことは、オレがオクレテルって事か。
 奴が正しくて、オレが間違っているのか。
 時代はハンズフリーなのか。
 今に街は、あさっての方向を見つめながら独り言を言う人であふれるということか。何もない空中に話しかける人達がいっぱいということか。

 い、嫌だ。そんなの嫌だぁぁぁぁぁぁぁっ。
 

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