幽霊屋敷。
2004/04/06


 イトウケンジ、怖いもの知らず。

 オレは、怪談とか怪奇現象とか心霊スポットにめっぽう強い。ちょっとやそっとじゃ、ビビリません。最初から信じてませんから。あ、あと、辛いカレーも大丈夫です。本場スリランカのカレーでも平気。知的で繊細でクールな外見とは正反対で、イトウケンジ、ハードボイルドなんです。

 オレの家から車で30分ほど走った所に、全国的に有名な心霊スポットがある。ひっそりとした山道を走っていると、その道沿いに、その建物は突然姿を現す。崖のような斜面にへばりつくように、灰色のコンクリートの建物がそびえ立っている。

 建物の正体は旅館の跡。アクセスのための交通手段もなく、風光明媚でも、観光スポットがあるわけでもない山の中に、何故、旅館を建てたんやっ、と思わず突っ込みを入れるまでもなく、倒産して廃墟となってしまったらしい。

 鉄筋コンクリートの三階建てで、当時は結構立派な建物だったろうと思うのだが、廃墟となると、その不気味さがかえって強調される。心霊を信じていないオレでも、思わず尻込みしたくなるほどの威圧感だ。

 外観もさることながら、中に入るともっとブキミで、ホラー映画の数十倍はおどろおどろしくて恐ろしい雰囲気だ。壁紙がズルズルと剥がれ、コンクリートの下地や鉄骨がむき出しになっている。床は、畳や板がグズグス腐っている。天井や壁から、配線やら配管が、血管のように垂れ下がっている。それらすべてにチリや埃がへばりついて、真っ黒になっている。廃墟全体が、何かの生き物の死体、干からびたミイラのようになっているのだ。

 初めてここに来た時に、オレは、天井から配線コードで吊り下げられていている黒い塊を見つけた。塊はいびつな形をしており、一部に靴下がかぶせてある。オレはためらわずにその靴下を取った。その下から現れたものは、鶏の頭。黒い塊は、ミイラ化した鶏の死骸だったのだ。

 ま、さすがのオレもビビッた。たちの悪い悪戯だ。

 しかし、圧倒的な迫力の建物に魅了され、なかなかインパクトのある体験をし、すっかりオレはこの心霊スポットにハマった。暇さえあれば、足繁く通い、探検を繰り返した。

 ある夜、悪友と二人で、いつものようにそこに行くと、その日は先客がいた。男女10人ぐらいの集団が肝試しをしている。オレ達はかまわず中に入った。ジッポーライターの灯りで足元を確認しながら、奥に進んでいく。

 すると、突然何者かに抱きつかれた。

 ま、さすがのオレもビビッた。

 抱きついてきたのは、肝試しをしていた連中の一人と思われるオニーチャン。ちょっとヤンキー風。肝試しのために一人で中に入ったはいいが、あまりの怖さに、へたり込んでしまって、動けなくなってしまったらしい。

 「スミマセン。一緒に出口まで行ってもらってもいいですか。」

 おいおい。度胸もないのに入ってくるなよ。女ならまだしも、野郎と手をつないで暗闇を歩く趣味は、オレにはない。が、オレも親切な男ですから。困った時はお互い様です。世の中助け合いです。オレは彼のエスコートを快く引き受けた。

 が、やっぱり途中で気が変わった。

 オレは、悪友と目配せをし、パチッとライターの炎を消し、若者の手を振り払って走って逃げた。建物の間取りは頭に入っている。オレ達は明かりがなくても、すばやく動けるのだ。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。」

 背後から、若者の断末魔の叫び声が聞こえた。

 こんな楽しい事があるから、心霊スポットはますますやめられない。
 あの時の若者は、無事に帰れたのかな。
 多分、チビッたろうな。

 ゴメンな。
 

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