白い糸。
2004/05/04

 
 のどの奥に違和感を感じた。何か異物がが引っかかっているような違和感だ。カラ咳をして異物を吐き出そうとするが、うまくゆかず、手を突っ込んで探ってみた。指先に触れるものがあるので、つまんで引っ張ってみると、髪の毛ぐらいの細い白い糸が、のどの奥からスルスルと出てきた。

 ぬ?

 引っ張れば引っ張っただけ、白い糸は途切れることなくスルスルと出てくる。一メートルほど引っ張り出したところで、初めて疑問が生じた。

 「何なんだ。これは。」

 まだまだ、出てきそうだが、このまま引っ張り続けてよいものか。引っ張り続けたら、突然目が見えなくなるって事はないだろうか。「あ、誰だよ、電気消したのは。」って、そんな恐ろしい事になったりしないか。セーターを解くみたいに、足の親指あたりから、スルスルっと解けていったりしないだろうか。
 そう考えたら、背中の辺りがスーッとするような恐怖を感じた。

 のどの奥から出てくる白い糸をつまんで、口をあんぐりあけたままの状態でフリーズ。どうしたらよいか、しばらく考えたが、結論は最初から一つしかない。

 出てくるだけ引っ張り出す。

 はさみでチョキンと切ってしまうと言う手もあるにはあったが、それをしてしまうと、謎は一生解けないままだ。ふと人生を振り返るたびに、白い糸の謎について思い悩むなんて辛すぎる。

 やらずに後悔するより、やって悩む方がいい。

 これは、オレの人生哲学だ。どうだ、カッコイイだろ。君たちも、何かで迷ったり、悩んだりした時には、この言葉を思い出して、道しるべにして欲しい。よく肝に銘じるように。

 話がそれたが、白い糸。
 覚悟を決めて、再び引っ張り出す作業に取り掛かった。スルスル、スルスルと、出てくる、出てくる。たちまち、こんもりとした山になった。
 10分ほどの時間が経過しただろうか。10分も口を開け続けていると、あごが疲れてくる。口の中も渇いてくるし。もう止めようかと、弱気な自分が顔を出したりし始めた。

 と。

 クンッ、と手ごたえがあって、白い糸の流出が止まった。ツンツンと軽く引っ張ってみるが、何かが引っかかっているようで、それ以上は軽く引っ張っただけでは出てこない。

 さてと。
 どうしたものか。グイッと力を入れて引っ張ってみたいのだが、体にとってものすごく大切な何かが、引っ張られて出てきてしまったりしたら、イヤだ。

 やらずに後悔するより、やって悩む方がいい。

 グイッ、グイッ、グイッっっっっっ。

 何かが、胃袋辺りから食道を伝ってグググっと上がって来る。
 そしてそれは、のど元まで来た。
 一瞬ためらったが、更にグッと力を入れて引っ張り出した。

 ポン。

 気持ちのいい音を立てて、ピンポン球ぐらいの大きさの、白くて丸い玉が飛び出した。

 あースッキリした。はぁーっ。

 物凄くスッキリ。

 出てきた白い玉が一体何かということは、もうどうでもよい。とにかくスッキリとした爽快感だ。全身を駆け巡る開放感だ。

 あーホントスッキリした。

 って。

 どうですか、読んでいた皆さんも、スッキリしましたか。スッキリした清々しい気持ちよさが伝わりましたでしょうか。

 もちろん、これはフィクション。作り話です。
 さわやかな季節ですし、読むだけでスッキリさわやかな気分になれるテキストを書いてみようかという試みです。

 風薫る五月。実に、爽やかですな。
  

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