職場の外でヘリコプターがバタバタとうるさいので外を見ると、目の前の駐車場が事件現場になっていた。
ひゃー。
パトカーが集結し、辺りは赤色灯に赤く照らされている。沢山の警官と沢山の野次馬がごった返し、頭上にはヘリが何機も飛んでいる。事件発生からまだ間がないようで、警官がキープアウトの黄色いテープを必死で張っている。テレビドラマでおなじみの事件現場が、目の前に繰り広げられていた。
ほほぅ。これはアレをしないと。
オレは窓のブラインドを下ろし、コーヒーカップを手にし、指でブラインドを押し下げて、そこから事件現場を覗いた。刑事ドラマでよく見るワンシーンだ。そこに見えるのは、紛れもなく、本物の事件現場。うーん満足。
「イトウさん。刑事ドラマで、刑事のボスがブラインドの隙間からのぞいていたのは警察署の外の風景ですよ。事件現場じゃないですよ。」
にゃー。
じゃあ、アレやってみよう。
手帳を見せながら、あの黄色いテープをくぐり抜けるってやつ。制服警官が「ご苦労様ですっ。」て敬礼なんてしてくれちゃって。えっと、なんかそれっぽい手帳はないかな。あ、あった、あった。銀行が毎年持ってくる手帳が、ちょうど黒くてそれっぽい。これでよし。ササッと素早く見せたら、ごまかせると思う。
じゃオレも、ちょっと行ってきますんで。
「イトウさん。今どきの警察は手帳じゃないですよ。」
にゃー。
そ、そうだった。ハリウッド映画の影響で、日本の警察もバッチに変わったんだった。さすがにバッチの代わりになりそうなものはない。ちくしょー。
ところで、どんな事件があったかというと、高級車の盗難事件。
物凄い巧妙な手口でドライバーを車から降ろして、一瞬のスキに盗んでしまうという、プロの車窃盗グループの犯行だった。
そして、盗まれた車には、赤ちゃんが乗っていた。
赤ちゃんを乗せたまま、車が盗まれてしまったのだが、犯人も盗んですぐに赤ちゃんに気づいたらしく、さほど遠くない場所に、赤ちゃんを乗せたままの車を乗り捨てた。その発見現場がオレの職場の目の前だったのだ。
そして幸いなことに、発見が早く、赤ちゃんは無事に保護された。
しかし、数時間発見が遅れていたら、最悪の結末を迎えていたかもしれない。車の中に赤ちゃんを置き去りにするなど、あまりに冷徹非情で残酷なことだ。罪状は殺人未遂である。窃盗グループの罪は非情に重い。
一人の親として、人間として、オレは、犯人を絶対に許さない。
絶対にホシを挙げてやる。
つー訳でオレ、とりあえず現場に行ってきますんで。
「だから、イトウさんは、入れませんって。」
にゃー。
|